第22回 インバウンドの観光客にも介護タクシー

日本に来る外国人観光客が増えています。当然、タクシーを利用する機会も増えているのだろうけれど介護タクシーには関係ないこと、と思っていたら依頼が舞い込んできました。

依頼内容は、日系2世ブラジル人姉弟を、滞在している都内のホテルから羽田空港までお連れするというものでした。高齢のお姉さんが、骨座礁で車いすが必要とのことです。なるほど、旅行中にケガなどして車いすに乗ることになったら、インバウンドの観光客でも介護タクシーが必要になるわけですね。

申し送り事項には「簡単な日本語は話せる」とあり、あまり外国人という意識を持たず、ホテルの客室まで車いすでお迎えに行きました。先に1階ロビーでお会いした弟さんと一緒にお部屋に向かう時、「〇〇〇ですね」と部屋の号室を日本語の数字で聞いたところ、きょとんとされます。すぐに数字を英語で言い直したら、安堵されました。顔は日本人ですが、分かるのは片言の日本語だけのようで、少し不安がらせてしまったかもしれません。

部屋で高齢のお姉さんを車いすに座らせ、介護タクシーにご乗車いただくためホテルの外へお連れします。姉弟以外にブラジル人女性のお連れ様がいらっしゃり、大きなスーツケースもいくつかあり、それらをすべて積み込んで車を出発させます。

行先は、国際線が発着する第3ターミナルで、首都高速を使い向かいます。第3ターミナルにもっとも近い首都高速の出口は、羽田線の空港西出口で、そのルートが最短です。しかし、なぜかこのルートだと、途中、「AIRPORT」や「飛行機マーク」など空港に向かっていると印象付ける案内が出てきません。第1、第2ターミナルに向かう湾岸線の空港中央出口ルートだと、そうした案内が頻出するのですが、空港西出口ルートにはないのです。

私自身、異国の地でタクシーに乗り空港に向かっているとき、「このタクシーは本当に空港に向かっているのかな?」と不安になったことがあります。もしや日系2世の弟さんも不安がっていないだろうか、などと少し心配になってしまいましたが、無事に第3ターミナルに到着。車いす車両専用の停車スペースに車を停めて、皆さんを出発ロビーの航空会社カウンターまで案内しました。

その後、空港内で無料で使える貸し出し車いすを借りてあげ、高齢のお姉さんの移乗をお手伝いし、その日の搬送を無事に完了しました。午後、依頼元から「丁寧な対応をありがとうございました」と連絡があり、何とか日系2世ブラジル人姉弟の役に立てたのかな、と思いました。

中須譲二
介護タクシードライバー
東京・文京区を拠点に車いすやストレッチャーでの患者等搬送を行う介護タクシードライバー。東京消防庁患者等搬送事業認定、介護職員初任者研修、運転2種免許。前職は出版社の編集。
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