プロ野球セ・リーグで巨人が優勝しました。久々のリーグ制覇だけに多くの巨人ファンが、これから迎えるクライマックスシリーズ、日本シリーズを楽しみにしているに違いありません。そんなファンの一人に、電動車いすで球場に足を運び観戦を楽しんでいるAさんがいます。
私がAさんからの依頼を受けたのは、東京に記録的な大雨の予報が出ていたとある日のこと。東京ドームでの試合終了後にAさんをご自宅までお送りするというものでした。普段は電動車いすを操縦し電車で移動しているAさんですが、大雨による交通の混乱を懸念して介護タクシーを使うことにしたのです。
その日、私は試合終了に合わせて、指定の待機場所に車両を停めAさんを待ちました。Aさんの依頼は初めてで面識はありませんでしたが、車いすに乗っているのですぐにわかるだろうと考えていました。やがて試合が終わり大勢の観客が球場から出てきます。そうしてしばらく人の流れを見ていると、少しして車いすの利用者が現れました。私は「Aさんだ」と思い近づいていきますが、その人は私を気にすることなくさっさと行ってしまいました。Aさんではない、別の車いす利用者だったのです。
その後も車いすの利用者は1人、2人と現れ、同じように通り過ぎていきます。私は、球場に車いす利用者用の観戦場所があることは知っていましたが、実際、私の想像以上に多くの車いす利用者が球場に野球観戦に来ているのだと、その時思い知りました。
その後、ようやく現れたAさんをお乗せして、私はAさんのご自宅へと車を走らせました。Aさんは、とてもアクティブで、車中でもずっと巨人のこと、野球観戦のことを話し続けます。以前、松井秀喜選手に会う機会があり大ファンになったこと、背番号55を受け継いでいる秋広選手に期待していることなど熱く語ってくれます。
東京ドーム以外にも、所沢、横浜、甲子園など精力的に各地に出かけているそうで、その行動力には頭が下がる思いがしました。ただ、球場によって車いす用の観戦席には、観戦の障害になるものがあったり死角があったりと我慢を強いられることもあるのだそうです。これから建設される新球場は、バリアフリーなのは当然として、車いす席からの見え方も十分に考慮して設計される必要があるようです。