第6回 介護施設で仕事体験

車いすのご利用者をご自宅から病院へ、あるいは老人ホームからご自宅へ、依頼を受けて搬送する。そんな今の仕事を始めるまでに準備したこととして、今回は介護の仕事体験のことを書こうと思います。

ある日、うちにとどいた地域広報に掲載されていたお知らせに目がとまりました。介護の仕事体験ができる企画の案内で、職場体験を経て介護職の資格取得を支援するものでした。職員の立場でご利用者に接するのは勉強になると考え、体験することにしました。

近所の有料老人ホームで2日間、朝9時から夕方5時までの仕事を体験しました。と言っても知識も技術もないため私がやれる仕事は限られていました。最初にやったのは、入居者のみなさんの前でストレッチ体操のDVDを映しながら手本になるように実演するものです。少し恥ずかしい気がしましたが、目の前のみなさんは全員無垢なのですぐに馴れました。

みなでいすに座った状態で音楽に合わせ体操すると、声の出方や大きさ、身体可動域などが、一人ひとり違うのがよくわかります。接し方も、お一人お一人にあわせて変える必要があるのだなと実演しながら思いました。その他、入居者の身体を拭く清拭用タオルの用意、食事時間に皆さんのテーブルへ配膳をする仕事など、私が体験できる仕事は限られていましたが、入居者に触れる食事やトイレの介助なども、職員さんの実際の仕事を見学して学ぶことができました。

入居者さんと対話するコミュニケーション体験もやりました。入居者は皆さん静かな方で、私が話した方も、最初はあまり会話が弾みませんでしたが、昔の思い出話をきっかけに、徐々に話をしてくださるようになりました。

昭和一桁生まれのそのおばあさんは、埼玉県川越方面の農家のご出身。若い時分に東京の本郷に移り住み、得意な着物の着付けと裁縫を仕事にし、人に教えることも多かったと、当時のことを身振り手振りで話すうち目が生き生きとしてくるのがわかりました。私はただ話を聞き、相槌を打つだけでしたが、自分の得意だったことを話せる相手がいたことがうれしかったのだろうと思います。
中須譲二
介護タクシードライバー
東京・文京区を拠点に車いすやストレッチャーでの患者等搬送を行う介護タクシードライバー。東京消防庁患者等搬送事業認定、介護職員初任者研修、運転2種免許。前職は出版社の編集。
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